106.
そんなに疑るなら、疑られるようになってみせるわ、というようなインネンのつけ方は子供には最もありがちな通俗なものだ
– 坂口安吾 -7652
107.
誰しも夢の中で叫びたいような名前の6つや7つは持ち合わせているだろう。ひとつしか持ち合わせませんといって威張る人がいたら、私はそんな人とつきあうことを御免蒙るだけである
– 坂口安吾 -7567
108.
技術は理窟では習得しがたく、又律しがたいものである
– 坂口安吾 -7642
109.
青春ほど死の翳を負い、死と背中合せな時期はない
– 坂口安吾 -7576
110.
悲しいかな、人間の実相はここにある。然り、実に悲しいかな、人間の実相はここにある
– 坂口安吾 -7556
111.
人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない
– 坂口安吾 -7590
112.
私は、勤倹精神だの困苦欠乏に耐える精神などというものが嫌いである
– 坂口安吾 -7617
113.
元来、共産主義の如くに、理想を知って、現実を知らず、その自らの反現実性に批判精神の欠如せるものは、専制、ファッショの徒にほかならぬである
– 坂口安吾 -7633
114.
好きなものを好きだという、好きな女を好きだという、大義名分だの、不義は御法度だの、義理人情というニセの着物をぬぎさり、赤裸々な心になろう、この赤裸々な姿を突きとめ見つめることが先ず人間の復活の第一条件だ
– 坂口安吾 -7625
115.
人間の尊さは自分を苦しめるところにあるのさ。満足はだれでも好むよ。けだものでもね
– 坂口安吾 -7591
116.
無論ボクは宗教にも文学にも人生にも救いなんか求めてはいない
– 坂口安吾 -7542
117.
一流たるべき人間は、はじめから、時代の中へとびこむにきまっており、ジャズや、ストリップや、そういう最も世俗的な、俗悪なものの中から育ってくるにきまったものだ
– 坂口安吾 -7644
118.
しかしながら小説の技術というものが、修練と同時に、これも亦発見を要するものでもある。私はこれを俗悪の発見と名づける。万人の俗な根性を惹きつける最低線で、軽業を演じることが必要なのである
– 坂口安吾 -7656
119.
われわれがそれを期待してよろしいのは、ジャズや、ストリップのような、時代的に最も俗悪なもののなかからだ。最も多くの志望者と切実な生活の中から現れてくるのだから
– 坂口安吾 -7645
120.
苦しめ、そして、苦しむのだ。それが人間の当然の生活なのだから
– 坂口安吾 -7640
121.
自分の身体のどんな小さなもの、一本の髪の毛でも眉毛でも、僕らに分からぬ「いのち」が女の人には感じられるのではあるまいか
– 坂口安吾 -7607
122.
つまり、本当に孤独になるということと、本当に性慾から解放されるということは、どこまで生きてもあり得ない
– 坂口安吾 -7650
123.
文学も、まア、そうだ。その人の限界は、だいたい二十代にその兆しが確立されている。あとは技術的に完成するか、迷路を廻り路するか、そんな風にして、ふとっていくだけのことだ
– 坂口安吾 -7547
124.
私は、闘う、という言葉が許されてよい場合は、ただ一つしかないと信じている。それは、自由の確立、の場合である。固より、自由にも限度がある。自由の確立と、正しい限界の発見のために、各々が各々の時代に於いて、努力と工夫を払わねばならないのだ。歴史的な全人類のためにではなく、生きつつある自分のために、又、自分と共に生きつつある他人のために
– 坂口安吾 -7615
125.
女の人は秘密が多い。男が何の秘密も意識せず過ごしている同じ生活の中に、女の人は色々の微妙な秘密を見つけ出して生活しているものである
– 坂口安吾 -7602
126.
人間を愛すな、といったって、そうはいかない。どの人間かも分らない。たぶん、そうではなくて、ただ人間というものを愛し、そこから離れることのできないのが人間なのではあるまいか
– 坂口安吾 -7588
127.
親がなくとも、子が育つ、ウソです。親があっても、子が育つんだ
– 坂口安吾 -7599
128.
いのちの代償が計算はずれの安値では信念に死んでも馬鹿な話で、人々は十銭の茄子を値切るのにヒステリイは起こさないのに、命の取引に限ってヒステリイを起こしてわけもなく破産を急ぐというは決して立派なことではないだろう
– 坂口安吾 -7659
129.
子供の自発的なブレーキに理解がなく、徒にシツケの厳格を誇るのは手前勝手で、子供が反逆して事を起すに至っても、自分がお手伝いしていたことには気付かず、親の義務をつくしたことを確信しているのが多いらしい
– 坂口安吾 -7620
130.
粋とか通とかいわれることが、すでに大衆の中に生きていないことのハッキリした刻印なのだ
– 坂口安吾 -7585
131.
こんな女に誰がした、という無自覚、無責任な魂は、反抗などすべきではなく、どこまでも、こんな女にされていくのがよろしいのである
– 坂口安吾 -7657
132.
能の舞台を見たいとは思わない。もう我々には直接連絡しないような表現や歌い方を、退屈しながら、せめて一粒の砂金を待って辛抱するのが耐えられぬからだ
– 坂口安吾 -7559
133.
すぐれた魂ほど大きく悩む
– 坂口安吾 -7655
134.
人間の心は苦難に対して鋼鉄の如くでは有り得ない。人間は可憐であり、脆弱であり、それ故愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる
– 坂口安吾 -7592