16.
考えてみると世間の大部分の人は悪くなることを奨励しているように思う。悪くならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。たまに正直な純粋な人を見ると、坊ちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。
– 夏目漱石 -7062
17.
道徳に加勢する者は一時の勝利者には違いないが、永久の敗北者だ。自然に従う者は一時の敗北者だが、永久の勝利者だ。
– 夏目漱石 -7038
18.
君は山を呼び寄せる男だ。呼び寄せて来ないと怒る男だ。地団駄を踏んでくやしがる男だ。そうして山を悪く批判する事だけを考える男だ。なぜ山の方へ歩いて行かない。
– 夏目漱石 -7064
19.
うそは河豚汁である。その場限りでたたりがなければこれほどうまいものはない。しかしあたったが最後苦しい血も吐かねばならぬ。
– 夏目漱石 -7080
20.
もし人格のないものが無闇に個性を発展させようとすると、他を妨害する。権力を用いようとすると、濫用に流れる。金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。随分危険な現象を呈するに至るのです。
– 夏目漱石 -7075
21.
女には大きな人道の立場から来る愛情よりも、多少義理をはずれても自分だけに集注される親切を嬉しがる性質が、男よりも強いように思われます。
– 夏目漱石 -7050
22.
ああ、苦しい、今、死にたくない。
– 夏目漱石 -7084
23.
私は冷かな頭で新らしい事を口にするよりも、熱した舌で平凡な説を述べる方が生きていると信じています。
– 夏目漱石 -7058
24.
世の中に片付くなんてものは殆どありゃしない。一遍起った事は何時までも続くのさ。ただ色々な形に変るから、他にも自分にも解らなくなるだけの事さ。
– 夏目漱石 -7043
25.
私はこの自己本位という言葉を自分の手に握ってから大変強くなりました。彼等何者ぞやと気概が出ました。
– 夏目漱石 -7059
26.
嫌な女も好きな女もあり、その好きな女にも嫌なところがあって、その興味を持っている全ての女の中で、一番あなたが好きだと云われてこそ、あなたは本当に愛されているんじゃありませんか?
– 夏目漱石 -7063
27.
ある人は十銭をもって一円の十分の一と解釈する。ある人は十銭をもって一銭の十倍と解釈する。同じ言葉が人によって高くも低くもなる。
– 夏目漱石 -7081
28.
離れればいくら親しくってもそれきりになる代わりに、いっしょにいさえすれば、たとい敵同士でもどうにかこうにかなるものだ。つまりそれが人間なんだろう。
– 夏目漱石 -7035
29.
教えを受ける人だけが自分を開放する義務を有っていると思うのは間違っています。教える人も己れを貴方の前に打ち明けるのです。
– 夏目漱石 -7069
30.
細君の愛を他へ移さないようにするのは、夫の義務である。
– 夏目漱石 -7061